あなたの「胸痛」は救急車が必要な救急疾患かもしれません。
本記事では博士号を有する救急救命士が「胸痛」の危険な兆候とその原因について紹介します。総務省消防庁が発行している救急車受診ガイドを活用し、救急車による病院への受診も視野に記事を読むことをお勧めします。
「胸が痛い」「胸が重苦しい」「息をすると胸が痛む」「動悸がする」など身近に潜む「胸痛」を引き起こす原因を症状別に紹介します。救急車受診ガイドによるセルフチェックできる症状項目を用意しましたので最後のリンクをチェックしてください。
【救急車は必要?】「胸痛」の原因を救急救命士が徹底解説
今すぐ救急車が必要な胸部・背部所見
☑ 突然の激痛
☑ 急な息切れ、呼吸困難
☑ 胸の中央が締め付けられるような、または圧迫される痛みが2~3分続く
☑ 痛む場所が移動する
胸痛とは
胸痛は、胸部に生じる強く不快な感覚であり、痛みだけではなく、「締め付けられる感じ」や「押し付けられる感じ」「押しつぶされる感じ」と表現されます。この痛みの感じ方の中には「心筋梗塞」や「急性大動脈解離」などの死に直結する痛みも含まれます。
胸痛は心臓由来の痛みだけではなく、食道、心臓、肺、胸壁、胸郭、血管、胸膜など様々な場所からの痛みが引き起こされます。
緊急度・重症度の高い「胸痛」の原因疾患と症状
救急車が必要な原因疾患とその症状(キーワード)を記載します。
〇急性冠症候群(心筋梗塞や狭心症)
症状)突然の強い前胸部痛/左肩/上肢/前頸部/心窩部への痛み/冷汗/心電図変化
胸痛において最も重要なのは急性冠症候群(心筋梗塞・不安定型狭心症)です。急性心筋梗塞は「胸が締め付けれれる痛み」が20分以上持続するのが特徴的で、急激な心臓のポンプ機能の低下によりショック(血圧低下)を引き起こします。痛みはピンポイントでの痛みではなく、胸全体を重くなるように感じるのが特徴的で、痛みの部位は左肩や左の奥歯に放散することもあります。狭心症は痛みの持続時間は短く数分程度です。
説明のつかない呼吸困難、冷汗、悪心・嘔吐、倦怠感、失神などがあるときは、はっきりとした胸痛の痛みがなくとも狭心痛と同じ意味を持つことがあります。救急車が必要な疾患です。
〇急性大動脈解離
症状)胸から背中にかけての激烈な胸痛/背部痛/血圧上昇/血圧低下/血圧左右差/上下肢差
血管疾患では、急性大動脈解離による疾患は重要である。痛みの性状として、胸部から背部、腰部にまで痛みが移動するのが特徴的です。痛みの性状としては「引き裂かれるような痛み」とも表現されます。かならずしも移動性の痛みの症状がでないこともあるので注意が必要です。女性よりも男性の高齢者に多く、動脈硬化や高血圧の持病がある方がなりやすい病気です。その他にも、マルファン症候群、梅毒、妊娠なども原因となります。
〇肺血栓塞栓症
症状)急激な呼吸困難/頻脈/頻呼吸/胸痛/頸静脈怒張/時に片側下肢の疼痛/腫脹
深部静脈の血栓が流れて肺動脈に詰まることにより発症します。下肢の深部静脈血栓症の既往のある高齢女性い多く発症する病気です。エコノミークラス症候群と呼ばれるのはこの肺血栓塞栓症を指しています。飛行機などの長時間の座位によって下肢の血流が悪くなり、血栓ができ、肺動脈に詰まることによって呼吸困難を引き起こします。原因としては、機内の乾燥、水分補給の低下、立ち仕事、アルコールの摂取による脱水、不動、肥満、座位、癌、手術後、外傷、エストロゲン製剤、抗リン脂質抗体症候群といった因子があります。さらに、災害時の車での車中泊においても発症することが多いともいわれる疾患です。呼吸困難と胸痛が代表的な症状として挙げられます。
〇胸部大動脈瘤破裂
既往歴/高齢/胸部激痛/血圧低下
大動脈壁の一部が全周性に拡大または限局的に突出した状態を大動脈瘤といいます。それらの動脈瘤が破裂した場合に症状が出ます。疼痛、嗄声、血痰、嚥下困難、血圧低下などの症状が出ます。出血量が多い場合は直ちにショック状態、すなわち血圧の低下が引き起こされますので緊急度の高い疾患です。
〇緊張性気胸
症状)慢性肺疾患既往/外傷/呼吸困難/血圧低下/患側呼吸音消失/鼓音/頸静脈怒張/瘦せ型の若い男性に多い
胸膜腔(壁側胸膜と臓側胸膜によって囲まれる場所)に空気が入ることを気胸という。その気胸が悪化し、静脈還流が阻害されることにより胸部臓器が圧迫され、循環状態に異常を及ぼしたものを緊張性気胸と呼びます。特徴的な所見としては、片側の呼吸音の減弱、呼吸困難、頸静脈の怒張などです。痩せ型の若い男性が自然に気胸を起こすことがあります。さらに外傷では胸部を強く打つことによって緊張性気胸に移行する場合もあるので注意が必要です。
〇特発性食道破裂
嘔吐直後の胸骨後面の激しい持続痛
特発性食道破裂では、嘔吐直後に突然、胸部や心窩部をバットで殴られたようなと言われるほどの持続性の激痛を伴う疾患である。
胸痛の部位別の原因疾患(参考)
〇心臓疾患
急性心筋梗塞/狭心症/急性心膜炎/心筋炎/心筋症/心臓弁膜症
〇血管疾患
急性大動脈解離/胸部大動脈瘤破裂/肺血栓塞栓症
〇胸膜疾患
自然気胸/胸膜炎
〇食道疾患
特発性食道破裂/胃・食道逆流症
〇胸壁疾患
帯状疱疹/肋骨骨折
〇その他
上腹部臓器疾患/心因性
救急車を呼ぶべきか迷ったら
総務省消防庁が発行している救急車受診ガイドを利用しましょう。
救急通報のポイントからためらわず救急車を呼んで欲しい症状を細かく紹介しています。
また、緊急性が高いと判断した時は迷わず救急車を要請してください。
総務省消防庁救急車受診ガイド
東京都 救急受診ガイド
まとめ
今回は救急救命士が「胸痛」の原因疾患とその症状を紹介しました。胸痛を引き起こす救急疾患の原因は今回紹介したもの以外にも数多くあります。日頃の生活習慣や運動時間を見直す良いきっかけになったかもしれません。「いつもと様子が違う」「違和感がある」など症状がある場合は早めのの医療機関受診が必要です。
参考文献:改定第10版救急救命士標準テキスト:へるす出版
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